キミだけのヒーロー
「あーあ。ほんまにヒマやし、名古屋でも行ってみっかなぁ」


そんな言葉がふいをついてオレの口から出た。


「北野典子に会いに?」


「うん。そう」


名古屋は確かに遠いけど、特急に乗れば、日帰りで行けないこともない。

そうまでして北野典子に会いたいわけでもないのだけど、昨夜見た夢がオレの中でずっと引っかかってる。

あの悲しそうに微笑んだ口元が妙に生々しかった。


考えすぎかもしれないが、北野典子に何かあったんじゃないか?

とすら思ってしまう。



「それもいんじゃない」


ヤマジはジュース片手にさっきから雑誌を読んでいる。

まるでオレの気持ちになんて無関心であるかのように。

だけどこいつは鋭いから、オレが落ち込んでいることに気づいているのかもしれない。

それでも何も聞いてこないのがヤマジの良いとこだ。

オレはヤマジのそんなところにいつも助けられてる。



「なぁなぁ、知ってる?」


その時、ふいに後ろの席にいる女の子達の会話が耳に入った。


「この横断歩道の話」


オレは思わず窓の下に目線を落とした。

ファーストフード店のすぐ前には横断歩道がある。



「ここ、出るねんて」


「え? 何が?」
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