クール王子はワケアリいとこ
クール王子ファンクラブ
朝の教室で、わたしは頭を抱えていた。
昨日見た笑顔は実は幻だったんじゃないだろうか?
そう思うほど、皓也に避けられまくっている気がする。
いや。正確に言うと、態度は軟化していると思う。
家を出るときドアを開けて待っていてくれたり。いつもならそのままさっさと歩いて行ってしまうのに、ある程度の距離を開けつつも歩調を合わせてくれていたり。
些細なことだけど確実に軟化というか、ちょっとだけ優しくなっている。
でも今まで以上に視線を合わせてくれない。
今までは視線が合ったらさり気なくそらされる感じだった。
今はサッと思い切りそらされる。
何なんだ、一体。
何となく昨日の笑顔を見てから皓也のことが気になっている。
でも気にしてよく見てみると余計に彼のことが分からない。
「ホントに、何なんだろう……」
溜息と共にそう呟けば、優香が「おはよー」と近づいて来た。
「……おはよー」
元気に返す気力は無く、机に突っ伏した状態で挨拶をした。
「何? どうしたの。朝から元気ないね」
朝から元気な優香は流石体育会系とでも言うべきか。
「うん……」
肯定して、どう話せばいいかと思考を巡らせていると――。
「ニュースニュース! 新情報だよ!」
優香より元気な加野さんの声が教室に響いた。
昨日の帰りに三年の転校生・淳先輩のことを話していたから、その先輩が家庭科部に入ったことかな?
なんて予想をしてみる。
でもその予想は裏切られた。
「九月に産休に入るはずだった国語の三波先生が入院することになっちゃったんだって」
それを聞いて思い出す。
三波先生が妊娠したってことは聞いた気がするけれど、担任なわけでもなかったからそれほど気にしたことは無かった。
入院するほど体調が悪かったのか……。
大変そうだな、と他人事ながら少し心配に思う。
でも加野さんの話はまだ続いた。
「で、今日から代わりの先生が来るんだけど。あたしさっきその先生見ちゃったの!」
加野さんは見た目にも興奮した様子で続ける。
「若い男の先生! 名前は聞けなかったけど、安藤先生って呼ばれてたから苗字は安藤よね。それでね、めちゃくちゃカッコイイの!」
カッコイイという言葉に、大半の女子が反応する。
反対に男子は興味を失ったように自分たちの会話に戻っていた。
まあ、わたしも小太りなオッサン先生よりは目の保養になるカッコイイ先生が良いと思う。
男子もこれがキレイな女の先生だったら興味が出るのかな。
「カッコイイってホント? ずいぶん興奮してるけど、たまたま加野ちゃんの好みだったとかじゃなくて?」
クラスの女子がそんな風に聞いている。
まあ、好みって人それぞれだからカッコイイと言われても自分はそう思えないってこともままある。
「好みだったってのは否定出来ないけど、みんなもカッコイイって思うはずだよー」
そんな感じで言い合っている女子を見ながら、わたしと優香は「今日の国語の授業で会えるんだから待てばいいのに」なんて話をしていた。