クール王子はワケアリいとこ
異変
保健室で手当てもしてもらって、加野さんと別れて一人で帰路についた。
加野さんは一人で帰るのを心配してくれていたけれど、流石に今日のうちにまた何かされるなんてことは無いだろう。
真っ直ぐ家に帰るから、と納得してもらった。
加野さんの家は反対方向なんだから一緒に帰るってこと自体無理だしね。
そんなこんなで何事もなく歩いていると、前方から見覚えのある人物が歩いて来た。
「淳先輩……?」
え? 家こっちのほうなの?
いやでも、学校の方に向かってるよね?
や、それ以前にしてもいない約束を破ったとか言いがかりされたらどうしよう。
昨日案内してと頼まれたことを思い出し、そして約束はしてないから気にせず帰ろうとしたことも思い出した。
まあ、何か言われても約束してないって言い張るけど……面倒な人に会っちゃったかも。
隠れるなりしてやり過ごせれば良かったんだけれど、この道は隠れる様な場所はない。
知らないふりして通り過ぎる。
なんてことも出来るわけもなく、淳先輩はわたしに気付いて声を掛けてきた。
「あ、そうびちゃん。会えてよかった」
パッと笑顔になって近付いて来る淳先輩。
「会えてよかったって、わたしを探してたんですか?」
まさか本当に約束破ったとか言い出さないよね? と探りを入れるように聞いてみる。
「ん? いや、探してたわけじゃねぇけど、会えたら言っておきたいことがあったんだ」
そう言って淳先輩は神妙な表情になる。
わたしは思わず身構えて聞いていた。
言いがかり付けられるかも!? って思いながら。
でも、淳先輩の言葉は予想外なものだった。
「今日は……いや、しばらくは皓也に近付かない方がいい」
「……え?」
皓也の名前が出てきて混乱する。
淳先輩は確かに皓也と面識はあるけど、昨日昇降口で会っただけのはず。
何より、転入してきたばかりの淳先輩がどうして皓也に近付くななんて言うのか。
そんなこと言うほど、皓也のことを知っている訳じゃないだろうに。
でも淳先輩は嫌に真剣な顔でこう続けた。
「同じ家だから難しいかも知れねぇけど、出来るだけ近付かないでくれ」
「っ!?」
驚きで目を見開き、息を呑む。
どうして、知っているの?
学校では優香にしか話していないこと。
皓也とわたしが今同じ家に住んでるってことを。
優香には、皓也はすぐに引っ越して行っちゃうんだから絶対に誰にも言わないで! と言ってある。
そして優香は絶対にとまで言った言葉を言いふらす様な友達じゃない。
実際に、学校の誰にもばれていない。
それなのに、どうして淳先輩がそれを知っているの?
驚愕して声も出せないわたしに気付くことなく、淳先輩は「わかったな?」と念を押して学校方面へ歩いて行ってしまった。
わたしはしばらくその場を動くことも出来ず、淳先輩の背中を見送っていた。