クール王子はワケアリいとこ
恥ずかしい!
恥ずかし過ぎる!!
だってあれ、キス……される所だったんだよね……?
恥ずかし過ぎて立っていられなくて、思わずしゃがみ込んでしまった。
ほっぺにとかじゃなくて、くっ口にっ!
しかもわたし、目つむって待ちの態勢してなかった!?
うっうああああぁぁぁーーーー!
しゃがんでうずくまって声も出してはいなかったけど、わたしの頭の中は恥ずかしさで絶叫していて大変だった。
そのとき、聞きなれた声が掛けられる。
「……そうび? どうしたんだ、しゃがみ込んで」
顔を上げると、見慣れた顔が心配そうにわたしに向けられていた。
「……お父さん」
「どうしたんだ? 具合でも悪いのか?」
「え? ううん。大丈夫、何でもないよ!」
心配させたくないのと、恥ずかしいことを考えていたことを気取られたくないのとでわたしはすくっと立ち上がる。
「それよりお父さん、今日は早いね」
今はまだ六時半を少し過ぎたくらいだろう。
お父さんはいつも七時は確実に過ぎるから、ちょっと早いお帰りだ。
「ああ、ちょっと早く仕事が終わってな。それに皓也くんのお母さんがケガしたそうじゃないか。皓也くんはそっちに向かったらしいが、詳しい話はお母さんが聞いてるみたいだから早く帰って聞いとこうと思ってな」
お父さんの話に驚いた。
そんなことになってるなんて。
オルガさんがケガした?
たまたま重なった?
それとも、皓也がいなくなる理由を作るための嘘?
お父さんはお母さんからのメールで知ったらしい。
わたしもどういうことになってるのか詳しく聞きたくて、「早く行こう」と足を速めた。
「そうびは遅いんだな? いつもこの時間なのか?」
スタスタ二人で歩きながら、お父さんが何気なく質問して来る。
一瞬ギクリとして足を止めそうになったけど、誤魔化すための言い訳を考えるために「うーん」と曖昧な返事を返しておく。
それで考えたけど、良い言い訳なんて出てくるはずもなく。
「ちょっと、部活の後話し込んじゃって……」
正確ではないけれど、間違ってもいない回答をした。
「そうか、でもあんまり遅くなるとお母さんも心配するから気をつけろよ?」
お父さんは深く突っ込む気は無いようで、注意だけして会話を終わらせる。
わたしは「はーい」と返事をしつつ、詳しく聞かれなくて良かったと安堵していた。
そうやって家に帰ると、少し心配していたお母さんにグチグチとお叱りを受けてしまった。
心配してくれるのはありがたい事なんだろうけど、そんな愚痴っぽく延々と言わなくったっていいじゃない。
おかげでオルガさんの事を聞き出すのが夕飯後になってしまった。