クール王子はワケアリいとこ
 その子達には見覚えがある。
 一昨日近くで見た顔だから忘れるわけがない。

「佐藤、ほら!」
 そう言って忍野くんは彼女たちを手招(てまね)きする。

 おずおずと出てきたのはこの間とは違ってほんの五人ほど。
 皓也のファンクラブの子達だ。


 よく見ると、リーダーっぽい子と、わたしを押してケガさせた子。そして最初にわたしを連れて行った三人の計五人だった。


 一昨日のことを思うと少し身構えてしまう。
 でもだからこそ、今度は絶対に人気のないところになんて付いて行かない。
 それに今この場では忍野くんもいる。
 第三者がいるところでならそこまで嫌なことはされないだろう。

 そう判断して、わたしは取りあえず彼女たちが何を話すのかを待った。

 最初に口を開いたのはリーダーの子。
「あの、その……この間はすみませんでした」
『すみませんでした!』
 ためらいがちに発せられた謝罪の言葉に、他の子達が続く。

「あたし達、段々ヒートアップしてかなり酷い事言っちゃったりして……」
「それに、しまいにはケガまでっ……させてしまって……」
 リーダーの子に続いて、わたしにケガをさせた子が涙混じりに言う。

 その謝罪を聞きながら、わたしは彼女たちをじっくり見た。


 皓也に嫌われたくないから、悪いと思っていないのに謝りに来たってだけなら当然許さない。
 でもそれ以外だったなら許してもいいかという気持ちで見極(みきわ)める。


 あのとき、この子達がわたしの心の傷を(えぐ)ったのはわたししか知らない。
 だから、そのことを根に持つようなことはしない。

 罪の意識から逃れたいだけって感じもするけど、それでちゃんと謝るならいいんじゃないかと思う。


 特にケガをさせてしまった子なんかは、本気で申し訳ないと涙を浮かべている。

 だから、許すことにした。


「うん、分かった。許すから、もう気にしないで」
 その言葉で、四人はホッとしたような安堵の表情を見せた。

 でもケガまでさせてしまった子は、そう簡単には気にしない何て出来ないんだろう。
 だからわたしは左手を上げて見せて笑顔で付け加える。

「大体、ちょっと大げさに血が出ちゃっただけなのよね。血だってすぐ止まったし、傷だってもうほとんど塞がってるんだから」

 本当は昨日皓也に抉られたせいで傷は塞がってない。
 でもそれがなければ塞がってたと思うし、絆創膏で傷は見えないから良いだろう。

 おかげで涙を浮かべていた子はぎこちなくも笑顔を見せてくれた。

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