クール王子はワケアリいとこ
だんだん山の中に入って行っている気がする。
建物や人工物が少なくなって、木々が増えてきた。
道路がアスファルトじゃなくなると、流石に不安になってくる。
「安藤先生、どうしてこんなところに?」
ガタガタと揺れやすい車内で舌を噛まないように気を付けながら話す。
「さっき言った方法を試すために、人気のない広い場所が必要でね。ほら、もとに戻るとき誰かに見られたら困るだろう?」
それはそうだけど……。
一応タイヤ跡はあるけれど、ほぼ獣道の様な場所になって来た。
本格的に不安になった頃、突然開けた場所にくる。
そのまま少し行くと、見覚えのある姿が見えた。
何故か今日も学生服の淳先輩と、狼姿の皓也。
わたしは車から降りると、小走りでそっちに向かった。
「皓也!」
もとに戻ったときのためだろうか。皓也は大きめの白いシャツを着せられていた。
でも毛並みもその表情も分かれたときのまま。
それに落ち着いたのか、その目には心細さや不安は見られなかった。
良かった、と安堵する。
話には聞いていても、やっぱりまだ不安があったみたいだ。
皓也の近くに来たと同時に、わたしは何も考えずに抱きつく。
少し癖があってふわふわした皓也の髪と同じ毛並みに埋もれると、安心した様な吐息が自然ともれた。
皓也は少しの間固まっていたけれど、頭をスリスリ擦り付けてくる。
また慰めてくれようとしてるのかな?
ありがとう、という気持ちを込めてさらにギュッと抱きつくと淳先輩のため息が降ってきた。
「はぁ。皓也だけだと狼ってか犬にしか見えねぇのに、なんでそうびちゃんとセットだとイチャついてる様にしか見えないんだろうな?」
「……」
腕を少しゆるめて淳先輩を見上げる。
「イチャついてませんけど」
すぐ近くでは皓也も淳先輩を見上げながら唸ってる。
「ほら、皓也も違うって言ってますよ」
「……いや、皓也は多分違う事言ってると思うぜ?」
まだ慣れないのか皓也に唸られてビビリながらも、淳先輩は反論してきた。
唸るのをやめた皓也を見て、そうかなぁ? と首を傾げる。
そんなわたし達に安藤先生が近付いて来た。
淳先輩は避難でもするかの様に安藤先生に小走りで近付き、聞く。
「で? 皓也をもとに戻す方法を試すって言ってたけど、どうするんだ? 協会の方にも応援頼んでたみたいだけど」
「ああ、それはねーー」
「その前に、皓也をこちらに渡してもらおうか」
安藤先生が言い終わる前に、どこからとも無く数人の男達が現れた。
しわがれたその声は、中央にいるお爺さんのものだと思う。