クール王子はワケアリいとこ
 ここは山の中とは言え開けた場所だ。
 誰かが近付いて来たならもっと早く気づくはず。

 なのにこのお爺さん達は突然わたし達のすぐ近くに現れた。


 何の予備知識も無ければただ混乱しただけだったろう。
 でもわたしは彼等の存在を教えてもらって知っていた。


 多分、この人達ヴァンパイアだよね?


 見た目は人と何も変わらない。
 それでも、異様な雰囲気は伝わってきた。


「……月原(つきはら)さん。どうしてここに?」
 警戒を露わにして安藤先生がお爺さんに言う。

 どうやら知り合いらしい。
 ただ、仲が良いとは言えないみたいだけど。


「さっきも言っただろう。皓也を渡してもらう」
 簡潔にそう言った月原さんは、鋭い目をこちらに向ける。

 睨まれた様になって、つい皓也にしがみ付いた。

 皓也も警戒しているのか姿勢を低くして唸っている。


「皓也くんは渡せない。昨日もそう言ったはずですが?」
「ああ、聞いたな。だから今度は(うば)いに来たのだ」

 そうして、月原さんは連れてきた男達に命令する。


「皓也を捕まえろ。そいつらは邪魔をするならば殺しても構わん。それと……」
 一度言葉を切り、わたしを真っ直ぐ睨んだ。


「その娘は目障りだ。処分しておけ」

「……え?」

 単純に睨まれて怖かったけれど、その言葉を理解して恐怖で背筋が凍った。


 処分って、何されるの?


 分からないけど、良い事でないのだけは確実だ。


 恐怖で固まっていると、安藤先生が叫ぶ。

「皓也くん、萩原さんを連れて逃げろ! 淳もサポートだ!」

 そうして動き出そうとする男達に何かを投げつけた。

 ちゃんとは見えなかったけど、棒状の手裏剣のようなもの。


 それが男達に届く前に、わたしの視界が回る。

「え?」

 何? と思ったときにはもふもふの上に乗っていた。


「皓也、こっちだ!」
 淳先輩が叫び、走り出す。

 それをわたしが乗っているもふもふ――皓也が追う。


 わたしはとにかく皓也から落ちないようしがみついてるのが精一杯で、どこをどう走ってるのかも分からなかった。


 安藤先生が足止めしてくれていたからか、男達から離れる事が出来たようで淳先輩が止まる。
 背の低い木々に隠れるようにしてしゃがんだ。

 わたしも皓也から下りて同じくしゃがむ。


 淳先輩が息を整えている間に、わたしも嫌な感じにドキドキする心臓を落ち着ける。

 完全には無理だったけど、話をする余裕は出てきた。
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