クール王子はワケアリいとこ
王子様候補転入生

 ショートホームルームも終わり、わたしは部活に行く準備を始めていた。

 優香はこの学校で特に力を入れているバレー部だから、遅れたら先輩に怒鳴られると言ってさっさと教室を出て行った。
 いつもの事ながら慌ただしい。


 逆にわたしの家庭科部は結構ゆるい。
 週三日だし、毎回5時には終わる。
 先輩達に怒鳴られる事も無いし。

 まあ、運動部と文化部の違いもあるだろうけど。

 そういうこともあって準備もゆっくりしていたんだけど……。


「あっ! そうちゃん、聞いて聞いてー」
 ゆっくりしているとこういうのに掴まってしまうこともある。

「……何? 加野(かの)さん」
 加野さんは情報通で、よく噂話(うわさばなし)なんかを教えてくれる。

「加野さんなんてよそよそしい。 明日香(あすか)って呼んでよ」
「あはは」
 笑って誤魔化(ごまか)した。

 実はわたし、加野さんのことはちょっと苦手だ。
 一緒にいて楽しい時もあるんだけれど、このテンションについていけないこともしばしば。
 だから、うん。ちょっと、ほんのちょっとだけ苦手。


「で、どうしたの? 聞いてほしいことって何?」
「あ、うん。今日さ、三年に転校生が来たんだって!」
「へー」

 どうでもいいと思うような情報のときもあるけれど、今回のはちょっと興味を引かれる。
 転校生が来るなんて、あまりないことだから。

 興味を引けたと分かったのか、加野さんはニッと口の端を上げて笑いさらなる情報を教えてくれた。


「しかもイケメンらしいんだ。運動神経も良いっぽくて、早くも王子様候補なんて言われてるらしいよ」
「王子様候補って……」

 笑えばいいのかドン引きすればいいのか分からなくて、優香いわく《未完成な困り笑顔》になってしまった。


「一年にクール王子って言われてる子がいるからだろうねー。でもそれだと、二年にだけ王子様がいないことになっちゃう!」
 ショック!
 とでも言わんばかりに両手を(ほほ)に当てる加野さん。
 ちょっと大げさなんじゃ。


 そのまま二年で王子様になれそうなのは誰だろう。なんて呟き始めたので、わたしは部活に行くと告げて加野さんから逃げることにした。

 二年生の王子様議論にまで付き合いたいとは思えなかったから。


 それに、皓也はともかくその三年生の王子様候補とやらと関わり合いになることもないだろうと思っていたから。

 まさか部室である家庭科室に行ったら、その噂の先輩がいるなんて思いもしなかった。
< 5 / 60 >

この作品をシェア

pagetop