クール王子はワケアリいとこ
 コテージにつくと皓也は真っ先に着替えに行った。
 クシャミをしていたから、やっぱり寒かったんだろう。

 わたしはリビングのソファーに座ってお茶を飲みながら皓也を待った。

 待ちながら色んなことを振り返る。


 思えば今週に入ってから、淳先輩が転入してきてからは怒涛(どとう)の毎日だった気がする。

 皓也の笑顔を見て。
 手をケガしたら皓也に近付くなって言われて。
 かと思ったらわたしの血を舐めて狼になっちゃうし。

 そして皓也のいない二日間で、わたしがどれだけ皓也の傍にいたいと思っているのか実感してしまったり。

 それで再会したと思ったらさっきの――。


「っっっ!」

 そこまで思い出して、恥ずかしくなって(もだ)える。


 そうだよ。
 わたし告白しちゃったんだ。


 皓也の反応すらまだ見ていないけど、あの状況で聞いていなかったなんてことはない。

 キスしようと顔を近付けてきたくらいだから、皓也もわたしに近い気持ちではいると思うけど……。

 ん? いや、あれ、本当にキスしようとしてたのかな?

 考え出すと、そこから疑問に思ってしまう。

 キスには(いた)ってないし、ただ顔が近付いただけだ。
 それにわたし、直前に目をつむったから皓也が本当にキスしようとしたのかは分からない。


 どっちなの!?
 わたし告白しちゃったけど、皓也にどんな顔すればいいの!?


 そうして頭を抱えていると、ガチャッと着替えていた部屋から皓也が出てきた。

 シンプルなシャツとジーンズ姿だけど、カッコイイなと自然に思ってしまう。


 そんなカッコイイ皓也と視線が合うと、さっきまで考えていたこともあり恥ずかしさが湧き上がる。

「あ、皓也も疲れたよね? 何か温かい飲み物いれるよ」

 恥ずかしさを誤魔化すようにそう言って立ち上がりキッチンに向かおうとすると、左手を掴まれ「飲み物はいらない」と止められた。


「その……色々とごめんな。手のケガも、今日の事も……」
 言葉を選ぶように視線をさまよわせながら皓也は謝る。

 確かに散々だったけど、皓也に対する怒りは特に湧いてこない。
 むしろ……。

「気にしないで。それに皓也の役に立てたならわたしは嬉しいよ?」
 好きな人のために何かを出来るなんて、嬉しいことだ。
 皓也を好きになって、それを知った。

 わたしの言葉を聞いた皓也は、言葉を詰まらせたあとわたしの左手を自分の口元に持ってきて、指先に軽く唇で触れた。

「……そんな風に言われたら、止まれなくなるじゃねーか」
「っ!?」

 指先に皓也の息がかかる。
 真っ直ぐにわたしを見る深い青の目が、獲物を狙う目になっている気がした。

< 55 / 60 >

この作品をシェア

pagetop