さようなら、愛しい人
殺しをしている時、誰かに見られるなんてことはなかった。だから多くの人から依頼をされてきたし、警察に疑われることもなかったんだ。

他の殺し屋は誰かに見られたらすぐにその人間を殺す。俺だって全く見知らぬ他人なら容赦せずリボルバーを向けていた。でも、サラは俺の大切な恋人だ。結婚したいとまで思っている人だ。そんなこと、できるはずがない。

「……ここで見たことは忘れろ。誰かに話したらお前を殺す」

俺はいつもより声を低くしてサラに言う。恋人が殺し屋だなんて知りたくもないだろう。サラはますます顔を青白くさせたため、脅しが効いたかと思い俺はまた歩き出そうとした。

「ッ!待って!」

サラが変わらず元気のない声で俺を呼び止める。俺が立ち止まるとサラは苦しげに息を吐きながら言った。

「私を殺して……!」

「は?」

自分を殺せなど、どういうことなんだ?混乱する俺に対し、サラはかばんいっぱいに詰められた札束を渡してくる。そして元気がないまま言った。
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