明日が見えたなら  山吹色

会社の最寄り駅の改札を出ると和田がいた。

「おはよう」挨拶しながら駆け寄ってくる。

「おはよう どうした?」

「パソコン買いに付き合ってくれてありがとう!あとその前にも夜に送って貰ってお礼もしていなかったから、お弁当作ったんだ」ニコニコしてお弁当を差し出して来た。

「お弁当?」

「良かったら、食べて」

「えっ いや 受け取れないよ」

「えー なんで? 折角作ったから受け取って 」お弁当を押し付けるように渡される。

「わかった ありがとう、じゃあ」身を翻し急いで会社へ向かった。

昼休憩になり社食へ行かずに休憩所へ行く。独身で後輩の渡辺がいたので、一緒に弁当を食べて貰らおうと声を掛けた。七海以外の弁当はやはり抵抗があった。

「奧さんの手作り弁当ですか?いいんですか?分けてもらって」

「違うんだ 『お礼に』って中学の同級生から貰った」

「……女の人ですよね?」

「ああ」

「神崎さん、気を付けた方がいいですよ」

「なにが?」

「不倫です」こそっと言われた。

「不倫!」

「目をつけられてると思います」

「はぁ?そんな事ないだろ」

「まさか二人きりで会ったりしていませんよね?」

「した…けど、そんなじゃない…相談されただけ」

「定番ですよ、罠にはまらないで下さいね 。奧さんの為にお弁当は交換して食べましょう。今は妬いてくれるような彼女はいませんから」と、コンビニ弁当を差し出された。

「やはり、手料理の弁当は食べない方がいいか?」

「当たり前でしょう!奥さんに知られたら悲しみますよ。まさか以前にも弁当貰ったんですか?」

「いや、弁当じゃなくてそいつの部屋でカレーライス食べた」

「余計にヤバいじゃないですか?神崎さん、浮気ですか?」

「違う!違う!パソコン設置を手伝いに行っただけ、それは妻も知ってるんだ」

「知っているんですか?!女の部屋に二人きり、疑われても仕方ない状況で、よく許してくれましたね」

「まぁ怒ってたげどな」

「それなのに、お弁当受け取ったんですか?懲りないですね、何甘くしてるんですか!神崎さんはその(ひと)に気があるのですか?無いなら誤解されないようにしたほうがいいですよ」

「渡辺…鋭いな」

「普通ですよ、神崎さんが鈍感なだけです、鈍感のついでにお聞きしますが、最近は結婚指輪していないですよね?」

「ハッ!やばい」自分の指を確認するとなかった。

 ‘’そうだ、温泉へ行った時に外してそのままだ ‘’ 血の気が引きそうだ。

「一応言っとくが、これは夫婦で温泉へ行ったときに泉質の為に指輪を外して、つけ忘れただけだからな…渡辺…指摘…ありがとう」

「どういたしまして、ビール3杯で結構です」

「了解」返事も上の空だった。
オレ、ヤバイのか?不安になる。だから渡辺がガッツポーズしてたのは気付かなかった。

 午後の仕事は気合い入れ、定時で速攻帰宅した。


「ただいま」急いで帰宅したが、七海はもう帰宅していた。今更バレているかもしれないが指輪をしていない手を見られたくなかった。

「おかえりなさい、今日は早かったんだね」七海はびっくりしている。

「ああ」

七海にキスをして急いで寝室へ行き、休日に使うバックの中から指輪を取り出す。早速自分の指に嵌める。温泉で外してから渡辺に指摘されるまで全く気付かなかった。

「彰くん?これから唐揚げを揚げるから先にお風呂に入る?」

「そうしようかな」

‘’ 指輪をしていなかった事に七海は気付いていたのだろうか?お風呂に入って少し落ち着こう‘’

「彰くん出た?ご飯の支度出来たよー!」
 
 お風呂から出る頃には平常心に戻る事が出来た。

「今日も美味しそうだな、いただきます」

「いただきます」

「唐揚げ美味しいぞ」

「エヘッ ありがとう、ご飯おかわりしてね」

「あのさ、今度の土曜日は出勤になりそうなんだけど、日曜日は休みだから七海『行きたいカフェある』って言ってただろ?行こうか?」

「行けるの?ありがとう!楽しみにしてるね」

喜んでる!良かった!指輪にも気付いたのか?目線がオレの指に止まったようだ。やはりオレがしていないの気付いてたのか?
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