ドキドキするだけの恋なんて

「信じられないって…あず美 まだ 雅代のこと こだわっているの?」

「そうじゃなくて。私 もう あの時みたいな 辛い思い したくない…」


「俺が あず美と付き合いながら また 違う女と 付き合うって?」

「そうなった時 タケルは どっちとも 別れられないって 言うんでしょう?」

「はぁ…?言わねーし。だいたい あの時だって……」


「私が 戻って来ると 思った?タケルの所に?」

「うん…俺 ずっと 待ってたのに。少しずつ 雅代を宥めて。円満に別れて。」


「それは タケルの都合でしょ?その間の 私の気持ちとか タケル 考えた?」


「……」



「今回だって そうじゃない?偶然 会ったから。だから タケル 私に連絡してきたけど。あそこで 会わなければ 別に 私と 付き合う気 なかったんでしょう?」


「そんなこと ねーよ。俺 ずっと あず美のこと 忘れてなかったし。会いたいって 思ってたんだ。」

「でも 積極的に 私を探すほどじゃ なかったんでしょ?」


「それは あず美に 彼氏がいるか わかんなかったし。」

「私に 彼がいれば 諦める程度って ことでしょう?ごめん。私 そんな 軽い気持ちじゃ タケルとは 付き合えない。タケルを 忘れるために どれだけ泣いたか。タケルは 知らないと思うけど…」


「あの時は 本当に ゴメン。でも 俺 もうあず美を 裏切るようなことは しないから。信じてくれよ。」


私は 小さなカップに入った 苦いコーヒーを 飲み干した。


「今日は ご馳走様。すごく美味しかったわ。そろそろ 帰りましょう?」


軽く 首を振って 言う私に

タケルは やれやれという 表情で 立ち上がった。


渋谷駅まで 他愛のないことを 話しながら。

タケルは 井の頭線の方に 歩こうとする。


「タケルは あっちでしょ?」

東急線の方を 指す私に

「送るよ。遅いから。」

そっと 私の肩に 手を掛けて 言う。


「いいわよ。1人で帰れるから。」

「遠慮すんなって。」

「別に 遠慮してるわけじゃ ないけど。ホントに 大丈夫だから。」


「俺が 送りたいの。まだ あず美と一緒に いたいし。」

「……」


「それに俺 あのコンパ あず美の会社の 女の子が来るって 聞いたから。だから 参加したんだし。しかし 本当に 会えるなんて…神様って いるんだなぁ。」


「えっ?タケル 私の就職先 知らないくせに。」


「知ってたよ、ずっと。別れてすぐ あず美 内定 もらっただろ?」



私は 驚いて タケルの顔を 見つめる。

そのまま タケルは 私の肩を押して 改札口を 抜けた。 









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