ドキドキするだけの恋なんて

混んだ 電車の中 並んで 吊り革に 掴まって。

私達は 当たり障りのない 会話を続ける。


「あず美のマンション 広くて 居心地良かったんだよなぁ。」


私が 大学に合格した時 父が 購入したマンション。


私の父は 仙台で 会社を経営しているから。

私は 経済的に 恵まれた生活を していた。


私の一人暮らしを 心配する父は

治安の悪い アパートに 住ませたくないと言って 

私のために マンションを購入してくれた。


「そう?」

「駅も スーパーも 近いし。便利だったよなぁ。」

「まあね。おかげで 今も 助かっているわ。」


私が 言うと タケルは 笑顔で頷いた。


付き合っている頃 タケルは 何度も 私の部屋に来た。


2人で スーパーに 行くことや

部屋に タケル用の物が 増えることが 

私は 嬉しかった。


学生のくせに 同棲の真似事をして。

大人の気分に なっていた。


あの頃 タケルは 私の恵まれた環境を

特別には 思っていなかったから。


私の境遇を 抵抗なく 受け入れていた。


就職して 自分も社会に出て

考えることは あると思う。


私自身も そうだから。


自分が働いて 生活するって 大変…









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