私は彼とあくまでも友達になりたい
ケーキはせっかくだし、と三等分してみんなで食べた。

水々しいマスカットと、甘い生クリーム。ふわふわのスポンジ。それらの一体感。

完璧!

「美味しいねー。」

私は2人に言う。

吉本くんは自慢げに「だろ?」と歯を見せて笑い、彰人くんは「さすが。」と私に便乗した。

そんな時だった。
スマホの着信音が聞こえる。

「あ、ごめん。俺。」

彰人くんが言う。そして、

「…母さんから。ちょっと出てくる。」

と言い、行ってしまった。
私と吉本くんは2人きりになった。

しばしの間最弱が流れる。
でも、私は、そんな静寂を許さなかった。

「ねぇ、吉本くんはさ、将来どこの学校行きたいとか決まってるの?」

私が聞くと、吉本くんは、

「…俺ら一年じゃん。その話題は生き急ぎすぎじゃない?」

と言った。ごもっともである。西窪梨花反省です。

「ごめんごめん。でも、聞きたいなーなんて?」

反省しつつも、懲りない私。

「…長濱製菓学校。」

ボソリと呟く吉本くん。
それについて、私は違和感を覚える。

「なんで、ボソボソ言うの?素敵じゃんか。お菓子作り。」

私が首を傾げながら聞くと、吉本くんは、少し驚いていたが、すぐに、

「俺、パティシエになりたいんだよ。」

と優しい表情で言った。私は頷く。

「その夢のことで、女子に笑われたことがあって。それで、夢の話がトラウマになったんだ。
そんな時、彰人に俺の家がケーキ屋だって知られて、夢も知られた。
それで、ぜってぇバカにされると思ってたんだけど、あいつ、俺のこと応援するって言ってくれてさ。それがきっかけで仲良くなったんだよ。
あいつがいてくれたから、今の俺がいると言っても過言じゃない。
今思うと、なんで、あんなことで喧嘩したんだろって思うけど…。

ま、彰人のことよろしくな。」

私は先ほどよりも力強く頷き、

「当たり前だよ!」

と笑った。

「吉本くんも頑張って夢、叶えてね!」

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