あなたの左手、 私の右手。
「言わずにいられなかった。もう、後悔したくないんだ。」
先輩はそれ以上言葉を続けなかった。

その代わりに瞳の奥にちらりと見えた切なさが、先輩の過去の大きな悲しみや傷を見せる。

付き合っていた彼女の心がほかの人に向いて、進みだしたときに、その彼女は亡くなったと先輩から聞いた。心がつながっているはずだと信じて仕事にがむしゃらに向き合っていた先輩が後悔していること。それは想いを、気持ちをちゃんと言葉にしていなかったこと。

「今はゆっくり休んで、早く元気になれよ。」
少ししてそう言った先輩は私の頭を優しくなでた。

「・・・はい。」
今の私には先輩に何かを返すことができない。
あまりに突然すぎることに、自分の気持ちが見えなくなっている。

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