あなたの左手、 私の右手。
「でも職場的にも・・・」
「そんなのは気にしない。別に夫婦で勤めてる社員だって山ほどいるやろ。周りは気にするかもしれへんけど、俺は気にしない。むしろ、うちのトップだってビルの中で堂々と奥さんといちゃついてんだから。」
先輩が言っているのはきっと社長のことだ。
【ASAKAWA】の新社長。奥さんと一緒に企画展に来た日以外にも、確かにビルの中で一緒に買い物をしている姿を見たことがある。

「でも・・・」
いろいろと思うことが多くて、口ごもる。
「試しに一緒に暮らそう。その間にアパートでもマンションでも探したらいい。それで見つかったら引っ越せばいい。でも、気が変わって俺と一緒に暮らしてもいいと思えたら、ずっと暮らせばいい。」
「先輩の迷惑じゃ」
「ばか。んなわけないやろ。俺は自分のために言ってるんや。美羽だけのためじゃない。自分にも大きなメリットがあると思うから言ってる。後悔はしない。」

強く抱きしめられながら、先輩が耳元で自信に満ちた声で言う。
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