あなたの左手、 私の右手。
ビルの窓から外をみると、近辺の建物の明かりがついていない。
この辺一帯の停電はまだ継続中なのだ。

社員用のエレベーターを確認しに向かうときに課長たちがラジオ番組を企画執行部のフロア内で聞いていた。状況がまだつかみきれていない。お客様をご案内するうえで正しい情報を伝える責任が私たちにはある。

判断がつかない状況の中でできることを手分けしてする執行部の仲間たち。普段から企画展の準備を共に徹夜しながらしたり、切磋琢磨しながら企画を次々に立案して手分けしている密な関係が、こういう非常事態にも対応できる信頼関係につながっていることを感じながら、私はその一員であることをうれしく思った。
家族は皆、いなくなってしまったけれど、私にはちゃんとここに居場所がある。

初めて実感できた瞬間でもあった。


社員用のエレベーターをみると、インジケーターは45階で停止したまま、まだ点検中を知らせる点滅にもなっていなかった。もしかしたらお客様のエレベーターが先に点検作業に入っていて、社員用はあとからなのかもしれない。
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