あなたの左手、 私の右手。
何も迷いがない社長の姿に、私は動くこともできない。

「ここには俺と赤名と多田野部長と佐々木と上遠野が残る。ほかの社員は非常階段に集まってるお客様の誘導にうつれ。社員用のエレベーターは使えないことを報告して、階段を使って降りられるお客様の誘導をして。降りられない方には毛布や水分を渡せるように確保して。災害マニュアルにそえ。」
先輩の声に、その場に集まっていた社員たちが一斉に動き出す。

「赤名、お前は社長の奥さんが救助されたときに使えるように、毛布を用意して。それから状況によっては俺も下に降りて社長を手伝う。レスキューが来るけど、大丈夫か?」
「はい」
私は震えながらも覚悟を決める。

誰かを守るということはそう言うことだ。
それに知らない場所で先輩に何かが起きるのは嫌だ。
せめてそばにいて、自分にできることがしたい。

「よし。まずは毛布の用意だ。」
「はいっ!」
私はフロアに非常用に設置されている毛布と水や保存食の入った倉庫へ走って向かった。
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