あなたの左手、 私の右手。
真っ黒な怖い記憶がよみがえりそうになるのを必死にこらえる。

そのために思いだすのは先輩の顔だ。
先輩の声だ。

大丈夫。
大丈夫。

そう言い聞かせている間に、エレベーターの扉があいて救急隊員が出て来た。

「社員の赤名と申します。現場にご案内します。」
私は救急隊員の前を早足で歩き、現場へと向かった。


足が震える。
でも、動き続けないとならない。
いつの日か原画展で見かけた社長の奥さんの顔を思い出す。
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