あなたの左手、 私の右手。
少しして、レスキュー隊員がフロアに到着し、すぐにいろいろと機材を用意して、救助を始める。

「俺たちは救助された奥さんが運ばれる導線の確保をすることと、ほかのお客様の誘導の状況を確認してなるべく目に触れないようにすることだ。パニックや動揺は避けたい。」
「はい!」
先輩の言葉に私が動き出そうとすると、先輩は私の手をグイっとひいた。

「靴はけ。」
そう言って私の足元にしゃがんだ先輩は私の足に靴を履かせる。
「動きにくいかもしれないけど、安全のためだ。」
私の足にヒールの靴を履かせると先輩は立ち上がり、私と視線を合わせた。

「大丈夫だから。もう少し、踏ん張ろうな。」
「・・・はい」
不思議と震えていた体が、すっと落ち着くのを感じた。

この人のそばなら大丈夫だと、頭ではなく心が分かっている。
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