あなたの左手、 私の右手。

扉が閉まった瞬間、今日の光景を思い出して一瞬ヒヤッとする私。

「大丈夫か？」
すかさず先輩が私の顔を覗き込む。
「ダメです」
冗談で、甘えたい気持ちもあってそんなことを言う私に、先輩は本気で焦ったように突然私の体を抱きしめた。

意外な行動に、私はヒヤッとしていた気持ちなどどこかへ行ってしまった。

「これなら大丈夫か？少しはましかな？平気か？もう少しでつくから。」

私のカバンを持ったまま、私を抱きしめる先輩。
あんなに過酷で、経験のない状況なのに、冷静に判断をして指示をしていた先輩が私の一言に大きく動揺しながらあれこれ考えている。

「・・・」
「美羽？」
職場では関西弁を使わなかった先輩が、関西弁を使って、私を抱きしめてくれている。
手をひいて、私のカバンまで・・・