あなたの左手、 私の右手。
すべてがあっという間の出来事。

気付けば私はたくさんの人の渦から少し離れた窓際という安全な場所に立っていた。
正面には黒谷先輩。
私の横に手を伸ばして電車の壁に手をつき、私がつぶれないように守ってくれている。
先輩の大きな体は私の体をすっぽりと隠してしまうような大きさだ。

「ありがとうございます」
一瞬の出来事に少し思考がフリーズしていた私。
でも、走り出した電車に正気に戻った。

「おう」
先輩にお礼を言うと先輩はそっけなく返事をしながら、私に自分の体がつかないように気を使いながら窓の外を見ていた。

「先輩もあの駅からなんですか?」
「あぁ。」
「昨日に引き続き今日まで・・ありがとうございます。」
「いいえ、どういたしまして」
何となく距離が近すぎてぎこちない私と先輩。
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