翠玉の監察医 癒えない時間
「いや、外科医とかじゃないよ。監察医になるためにアメリカに行くんだって言ってた」

「そっか。日本は解剖をほとんど行わないから……。海外で働いた方がいいわよね。それで義彦さんたちは何て言っているの?」

「星夜くんの悪口ばかり言っているよ。アイツも出来損ないだとか、もう二度とうちの敷地に入らせないとか」

「信じられない!自分の子どもなのに……」

そんな二人の会話を聞き、蘭はそっと胸に手を当てる。七歳の頃以来会うこともなかった星夜の顔がはっきり見えた。そして、監察医という聞いたことのない仕事に心が惹かれていく。

「蘭、どうしたんだ?」

蘭の気配に気付いたのか、リビングのドアが開く。蘭は「何でもないです」と言い、図書館へ行くためのかばんを手に取った。

「連続殺人犯は住宅街で一人でいる人間だけを襲ってる。図書館なら安心ね」

玄関まで見送りに来てくれた藍子が微笑み、駆流も「お昼くらいに迎えに行くよ」と言って頷いていた。
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