翠玉の監察医 癒えない時間
蘭の目の前が暗闇に包まれていく。気が付けば、蘭は意識を手放していた。



気が付いた時には、蘭は警察に保護されていた。たまたま回覧板を渡しにきた近所の人が異変に気付き、家の中に入ったことでリビングで殺害された蘭の両親と気を失っている蘭を見つけ、警察に通報したためだ。

蘭は警察の事情聴取に、パニックを起こすことも泣くこともなく落ち着いて答えていた。これに警察の人は驚き、知らせを聞きつけて駆け付けた義彦たちは「こんな時に落ち着いていられるなんて!」とヒソヒソと話していた。

蘭の胸には、ぽっかりと暗くて深い穴があった。しかし、何故か涙は一滴も蘭の瞳からは出てこないのだ。

義彦たち三国家の大人が葬儀屋を決め、あまりお金をかけないプランのお通夜とお葬式が行われた。黒いワンピースを着た蘭はただ両親の遺影を見つめているだけで、やはり涙は出てこない。

駆流と藍子を殺害したのは、例の連続殺人犯だった。警察の捜査の甲斐もあって犯人は逮捕されたものの、蘭の胸に空いた穴はどうにもならない。
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