翠玉の監察医 癒えない時間
「こんな子の親の葬儀に出なきゃいけないなんて……」

「うちであんな化け物を引き取るのは無理だぞ」

三国家の人たちが話す声は、蘭の耳には届かない。ただ何かに憑かれたかのように遺影を見続ける。そんな蘭の耳に入り込んだのは、懐かしいあの声だった。

「蘭ちゃん!」

その声に蘭が振り向くと、黒いスーツを着た星夜が走ってくる。星夜の額には汗が浮かび、息も上がっている。急いで来てくれたのだとわかった。義彦たちが驚く中、蘭も星夜に駆け寄る。

「星夜さんは、アメリカの医大にいるのではなかったのですか?」

「連絡をもらって、すぐに来たんだ。駆流さんや藍子さんにはお世話になったから……」

それより、と星夜の呟き声がした刹那、蘭の体がふわりと温もりで包まれる。数十秒かけ、蘭は自分が星夜に抱き締められているのだと理解した。

「せ、星夜さ……」

戸惑う蘭に、星夜は背中を優しく叩きながら優しい声で言う。
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