翠玉の監察医 癒えない時間
「ただいま戻りました」

蘭は玄関のドアを開けて言う。その後、後ろにいた圭介が「お邪魔します」と言い入る。

「おかえりなさい」

そう言い玄関に現れた碧子は、圭介がいることに少し驚いている顔を見せた。蘭は「……過去を話そうと思います」と言うと碧子はその目を見開く。

「いいの?話しても」

「はい。もう決めました」

蘭は碧子を見つめる。碧子は蘭と圭介の顔を交互に見つめ、心配げな顔を見せたものの「わかったわ。蘭ちゃんが決めたなら」と息を吐く。

「深森くんも夕食、食べていってちょうだい」

「あ、ありがとうございます!」

碧子に圭介はお礼を言う。その胸は緊張と蘭の過去を聞くということにドキドキしていた。

リビングのテーブルの上には、肉じゃがやきゅうりの酢の物などの夕食が並んでいた。碧子は「多めに使っておいてよかった」と言いながら圭介のぶんのご飯をよそう。

「ありがとうございます!お腹ペコペコで……。とってもおいしそうですね!」

そう言って笑う圭介の横顔を蘭はジッと見つめていた。自分の過去の話を聞けば、きっとこの笑顔はなくなる。そう思うと胸が痛み、蘭はブローチを握り締める。

碧子と圭介が時々話す中、蘭は黙って夕食を食べていた。そして蘭は一番最初に食べ終わり、皿洗いをササッと済ませてしまう。
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