翠玉の監察医　癒えない時間
「ありがとうございます、星夜さん」

蘭の口角がゆっくりと上がる。蘭の見せた表情に星夜は頬を赤く染めていた。

蘭は初めて笑った。星夜と同じように優しく微笑んだのだ。



監察医としての試験も合格し、星夜と同じ世界法医学研究所に就職することを決めた蘭は、残りの学生としての時間を大切に過ごしていた。

卒業を控えたある日、蘭が家に帰ると星夜が「今日のご飯は食べに行こう」と蘭にミントグリーンのドレスを差し出し、言ってきた。星夜は立派なスーツを着ていて、近所にあるレストランに行くわけではないのだと蘭は理解する。

ドレスに着替えた後、蘭は星夜の運転する車に揺られておしゃれなフレンチのレストランへと連れてこられた。

「卒業祝いも兼ねて、ここで食べよう」

星夜に手を引かれ、蘭は星夜に連れられてホテルのロビーに入ったあの時のことを思い出す。まるであの日に戻ったかのような感覚がしたからだ。

席に案内されると、窓の外からは素晴らしい夜景が見えていた。街の明かりの一つ一つが美しく、蘭は見惚れてしまう。
< 29 / 46 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop