翠玉の監察医 癒えない時間
「は、早いんですね……」

蘭の食事を終えたばかりとは思えない動きに圭介は驚き、碧子が「蘭ちゃんは事情があって行動が早いのよ。そして、足音や物音を一切立てない」と真剣な顔で言う。

「深森さん、今からお話ししてもよろしいでしょうか?」

蘭は圭介をまっすぐ見つめる。その顔は無表情だったが、圭介は食事の手を止めて「はい。大丈夫です」と返してくれた。蘭はゆっくりと話し始める。

「私の両親は、私が十歳の頃に連続殺人犯によって命を奪われました」

圭介の目が大きく見開かれた。



蘭は、絵画教室を開きながら画家をしている駆流(かける)とカウンセラーをしている藍子(あいこ)の間に生まれた。

駆流は元々三国家の人間だった。義彦(よしひこ)とは血の繋がった家族だ。駆流が弟である。しかし、兄弟仲や家族仲はあまりよくなかった。

三国家は、男は医者になり女はいい家に嫁いで夫を支えるという考えの家で、自由を好む性格だった駆流とは合うはずがない。駆流は好きだった絵を仕事にするために家を飛び出し、孤児であり家族のいない藍子と出会って結婚をした。駆流は三国の名前を捨て、藍子の婿養子となった。三国家と縁を切りたかったからだ。
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