翠玉の監察医 癒えない時間
「蘭」

星夜に名前を呼ばれ、蘭はすぐに星夜の方を見る。星夜の顔はとても真剣なものだった。しかし、その瞳の奥には寂しさや切なさを漂わせている。それが何故か、蘭にはわからない。

「おめでとう。これを君に」

星夜は蘭にラッピングされた小さな箱を手渡す。

「開けてもよろしいですか?」

蘭が訊ねると星夜は頷き、蘭はゆっくりとリボンを解き、小さな箱の蓋を開ける。

箱の中に入っていたのは、エメラルドのブローチだった。証明に照らされ、煌めくブローチに蘭は胸に手を当てる。

「今まで何一つ女性らしいものを贈れなかったから、ブローチを選んでみたよ。きっと蘭に似合うと思って」

蘭は星夜にアクセサリーをねだることはしなかった。メイク道具は必要な分だけ自分のお金で用意し、服も着回すことが多いため、少ない。そのため、このブローチが蘭が初めて手にする装飾品だった。

「つけ方がわかりません」

蘭がそう言うと、星夜はため息をつくこともなく蘭の胸元にそっとブローチをつける。そして「思った通り。よく似合ってる」と微笑んだ。
< 30 / 46 >

この作品をシェア

pagetop