翠玉の監察医 癒えない時間
蘭が男たちを睨み続けていると、突然グイッと腕を引かれた。蘭が振り向くと、ヘンリたちが何かの覚悟を決めたように蘭を見つめている。そして蘭は床に放り投げられた。刹那、蘭の耳に銃声が響き渡る。

「……どうして?」

倒れた蘭が体を起こすと、そこに転がっていたのは、先ほどまで自分に笑いかけてくれていた初めてできた友達の姿だった。三人の体は血に染まり、廊下を染めていく。

蘭は震える手でアーシャの手を握った。その手はまだ温かい。もうアーシャはただの肉の塊だというのに、体温がまだある。蘭が解剖していた遺体はどれも冷たかった。その体温に、蘭の目から涙がこぼれ落ちる。

アーシャ・クルニコワ、ヘンリ・モウラ、チ・ミンホ、三人にはそれぞれ辿ってきた二十四年という道があって、その中で幸せな思い出や大切な人と巡り会ってきた。でも、その道は突然この見知らぬ男たちの理不尽な暴力によって、壊された。全てを無かったことにされた。
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