翠玉の監察医 癒えない時間

しかし、駆流は三国家から離れることはできなかった。義彦たち三国家が無理やり家に押しかけてくるからだ。

「お前の子どもは女か。役に立たないぞ」

「うちは息子が二人！いいでしょ〜？」

蘭が生まれた時、病院にやってきた義彦たちは蘭を見て嫌味を言った。それを見て駆流は「帰ってくれ！」と激怒し、藍子は蘭を黙って抱きしめていた。

それからも、駆流と藍子の前に義彦たちは現れては自慢や嫌味を言ってきた。

「お前の人生は負け犬のものだ」

「かわいそうよね〜。最初から敗者だなんて！」

そんなことを言われ続けたものの、蘭の前で二人は決して三国家の人間の悪口や陰口を言ったりはしなかった。逆に幼い蘭を抱き締め、二人は言ったのだ。

「何を言われても、何をされても、人を許せる優しい人になるんだぞ」

「人が言葉を話せるのはね、誰かを救うためにあるの。蘭、優しい言葉をたくさん口にして人を助けてあげてね」