翠玉の監察医 癒えない時間
圭介は言葉を発することができなかった。蘭の過去がこんなに残酷なものだとは思いもしていなかったからだ。ただ、体の震えが止まらない。

「こんな過去を知ってしまっても、私を同じ目で見ることができますか?」

蘭に見つめられ、圭介は「神楽さん……」と掠れた声で言う。碧子はただ黙って二人を見ていた。

蘭のしてしまったことはなかったことにすることはできない。蘭は死ぬまで罪を背負って生きていく。どれだけ後悔してもどうすることもできない。でも、圭介の言う言葉は決まっている。

「もちろんです。俺は、神楽さんと関わっているのはほんの一瞬です。でもその一瞬の神楽さんは、ご遺体に向き合って、事件を解決していました。故人や遺族の方を救っていました。そんな人を「殺人犯」とは思えません」

その刹那、蘭の瞳から涙があふれ出る。碧子が優しく蘭の頭を撫でながら「ありがとう、深森くん」と涙で目を潤ませながら言った。

圭介の胸が高鳴っていく。この想いが叶わないとわかっていても、捨てられないのだ。
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