翠玉の監察医 癒えない時間
「その絵、上手だね」

蘭が七歳の頃、無理やり三国家の集まりに参加させられていた時のことだ。仲良く遊ぶ子どもたちから遠く離れ、蘭はいつものように絵を描いていた。その時、蘭に誰かが声をかけてきたのだ。

蘭が顔を上げると、十代後半ほどと見られる男子が立っていた。ロング丈のTシャツの上にコーチジャケットを羽織り、カジュアルな雰囲気をしている。そして、自分に向けられた笑顔に蘭は目を見開いた。

自分にいつも向けられるのは、冷たい目や顔だった。そして三国家の集まりでは、男性も女性もブランドのいい服を着てやって来る。カジュアルな格好の人を見たことがない。そして、優しい顔を両親以外の人が向けてくれたことに蘭は驚いてしまっていた。

「ああ、まだ名前を言ってなかったね。俺は三国星夜(みくにせいや)。十七歳だよ。よろしくね」

星夜は蘭と目線を合わせてくれた。優しい瞳に見つめられ、蘭の胸に感じたことのない何かが生まれていく。

「神楽蘭……です……」
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