翠玉の監察医 癒えない時間
蘭はそれしか言うことができなかった。星夜もそれからは話しかけることなく、蘭を優しく見つめているだけだった。しかしーーー。

「星夜!どこ行ったの?」

義彦の妻である晴子(はるこ)が呼ぶ声がした。その声に星夜がハッと振り返る。親戚中から嫌われている蘭と話していたと知られれば、彼も白い目で見られるだろう。

「またね」

星夜はニコリと蘭に微笑み、去っていく。蘭はその後ろ姿をジッと見つめていた。



蘭は星夜との出会いに驚いたものの、関わることになるのはこれっきりだけだと思っていた。あの事件が起きるまでは……。

『東京で今日も殺人事件が起きました。警察は容疑者の男の行方を追っています』

蘭が十歳の頃、テレビでは毎日のように殺人事件のことが報道されていた。狂気的な思考を持った男性が、東京や神奈川、千葉や埼玉県を中心に殺人を繰り返していたのだ。

「怖いわね。蘭、知らない人が来てもドアを開けちゃダメよ」
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