翠玉の監察医 癒えない時間
「図書館にお父さんが送り迎えするからな。絶対に一人で外に出ちゃダメだよ」

朝ご飯を食べながら両親は言い、蘭はコクリと頷いて牛乳を飲み干す。世間では夏休みを迎えたばかりだが、東京やその周辺の県では子どもが気軽に外出できなかった。

蘭も家で解剖に関する本を読んだり、宿題を済ませたりしていたのだが、読書感想文を書くための本がないことに駆流たちが気付いたのだ。蘭は解剖に関する資料しか読まないため、家に小説は一つもないのだ。

朝ご飯を食べ終え、宿題の続きを蘭がしていると、あっという間に図書館が開く時間になった。蘭は時計を見て宿題の手を止め、駆流に声をかけるために一階へと降りる。

リビングのドアは閉まっていた。そこから駆流と藍子が話す声がする。蘭はドアを開けようとしたが、その手がピタリと止まった。「星夜」という名前が出てきたからだ。

「星夜くん、アメリカの医大に行ったんだって」

「そうなの?星夜くん、私たちに三国家には従いたくないってあれだけ言っていたのに……」
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