子作り契約結婚なのに、エリート社長から夜ごと愛し尽くされました
「はい、どうぞ」

渡そうとしているのに、手を出す気配はない。
おもむろに口を開けて待っている。これは俗に言う〝あーん〟ってやつだろうか?

「おい、唾が垂れる。はやくしろって」

うん。いつも通りストレートだな。
この人にはオブラートで包むという感覚もないんだろうな。

「ど、どうぞ」

仕方なく口に入れてあげると、じっくりと咀嚼し始めた。

無難な味のはずだけど、やっぱり他人の評価は気になるわけで、じっと反応を待つ。


「うん。美味い。さすが紬だな」

なにその無防備な笑顔は。
ちょっとだけドキッとしちゃったことは、絶対に言わない。

「じゃあ、運ぶぞ」

「お願いします」




テーブルに向かう柊也さんの背中をチラッと見て、心の中で小さく息を吐く。


なんでこんなことになってるんだろう……
私はただ、子どもが欲しかっただけのはずなんだけど……


予定外のやりとりに、正直私は戸惑っていた。



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