恋愛経験0のイケメン俳優と恋をした件。(事件)
駅までもぉ少し
ふたりの間を生ぬるい夏の夜風が通った
「前も、一緒に歩いたよね」
「うん
ラーメン食べに行く時?」
「うん…大蔵さん…」
キミがクスクス笑った
「ん?なに?」
「んーん…
思い出したら、おかしかったから…
あの時もメガネ掛けてた」
「あぁ…」
キミの思い出し笑い
かわいくて
少しくすぐったい
ずっと笑って
オレの隣にいてほしい
駅がもっと遠かったらよかったのに…
「また一緒にラーメン食べに行こうよ
この前、オレだけ食べたし
紬食べれなかったから奢るよ」
「んー…
ずっと行ってなかったんだ
あのラーメン屋さん
久しぶりに並んだの」
「え…なんで?
紬、好きだったじゃん」
「うん…
…
思い出したいことも
思い出したくないこともあったから…
…
なんか、ずっと行けなかった」
それって…
「オレの、せい…?」
「大蔵さんのせいとかじゃないけど…
…
でも…全部、大蔵さんのことかな…」
「ごめ…」
「今日、楽しかった
送ってくれて、ありがとう!」
キミはオレの謝罪を掻き消した
「最後、笑顔で言いたかった
…
バイバイ…
大蔵さん、バイバイ」
キミは笑顔だったけど
バイバイ…
感情のない言い方
キミの心の中に
オレはもぉいないんだってわかった
最後…
オレはそんな気
ぜんぜんなかった
「オレは、忘れてないよ…
…
紬の匂い
…
ずっと憶えてた」
キミは振り返ることなく
改札を抜けていった