プラチナー1st-

会社のビルの外に出た紗子は、手を引いてきた和久田に向き直って怒鳴っていた。

「なんで主任にあんなこと言うの! おかげで思いっきり誤解されたじゃない!」

紗子が怒っているというのに、和久田はけろっとしたもんである。

「だってお前、考え直した方が良いぞ。あの人は人のもんじゃん」

そんなこと、重々承知だ。だから想いを伝えることはないし、上司と部下の関係から進むこともあり得ない。それでも気持ちだけはどうにも出来ないのだ。想うくらい良いじゃないか。

「誰にも迷惑かけてないじゃない…っ。それでも駄目って言うの……」

半ば自分に言い聞かせるように、そう呟いた。言葉の内容を再認識してしまって、涙がにじむ。それを見た和久田が驚いた。

「うわ…っ、……お前、そんなに本気だったのか……」

恋なんて何時だって本気だ。気持ちが堪えきれず、紗子は和久田の前でぽろぽろと泣き出してしまった。


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