プラチナー1st-
ひとのもの(1)
和久田が泣く紗子を連れてきたのは駅の傍のコーヒーショップだった。夕刻で賑わうその店の一番奥の席で和久田と向かい合って座っている。ぐすぐすと鼻を啜る紗子に、和久田はカウンターから持ってきた紙ナプキンを渡してくれた。そういう気が回るなら、何故浜嶋の前であんなことを言ったりしたのか。
「あの人は止めといた方が良いぞ。マジ、実らねーから」
和久田はテーブルに着いてから何度言ったか分からない言葉を紗子に向けていた。紗子もまた、同じ言葉を返す。
「私の気持ちは和久田くんの意見に左右されないよ。大体、なんの権限があって私の気持ちを和久田くんに止められなきゃいけないの…」
「だって、報われねーだろ」
なんでこの男はこうも紗子に食い下がってくるのか。放っておいてくれれば良いのに。やっぱり今日付き合うなんて約束しなければ良かった、と紗子は思っていた。
「気持ちはどうしようもないじゃない。諦めようって何回も思ったの。でも無理なものは無理」
「何がそんなに良いの、あの人の」
主任の良いところだったらいくらでも挙げられる。顔、性格、面倒見の良さ、部下からの信頼を集めているところ、上司からも認められているところ。そして…。
「ひとの、ものだから」
「は?」