プラチナー1st-
「なんにも知らないくせに、偉そうに言わないで。私は何時でも本気だったし、和久田くんにどうこう言われたくない」

「恋敵に負けてる時点で本気じゃないだろ。本気だったらどんなことしてでも欲しいって思うはずだろ」

そんな、好きな人に迷惑かけるようなことなんてしたくない。紗子はただ、傍に居て、一緒に時間を過ごせるだけで良いのだ。痺れるくらい甘い水に溶け込むようなあの気持ち。あれを体感できるだけで良い。

紗子がそう言うと、和久田は、やっぱり本気じゃないって、と言った。

「だから先刻(さっき)から何度も私の本気を疑わないでって言ってるでしょ。もうほっといて。和久田くん煩いのよ」

このまま和久田を置いて帰ってやろうか。そう思った時に、向かいに座る和久田が乗り出してきて紗子の唇に人差し指を当てた。突然のことにびっくりして紗子が何もできないでいると、

「分かった。本気の恋ってどんなもんか、俺が教えてやるよ」

覚悟しとけ。

そう言って和久田は、まるで餌を前にした捕食動物のような目をして笑んだ。知らず、びくりと肩を竦ませると、和久田がにやりと口角を上げてついっと紗子の唇をなぞって、自分の唇にそれを当てた。店内が少しざわめく。そんなことをされると思っていなかった紗子は、恥ずかしさに顔を真っ赤にした。

「ば…、馬鹿…っ! 和久田くんとはもう金輪際約束なんかしない!」

叫んで店を逃げ出したけど、和久田は追ってこなかった。
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