プラチナー1st-
「松下、昨日は飲みに行けなかったから、今日こそ飲みに行こう」

その話か。あの時もう和久田くんとは約束しないと言ったはずだが。

「だって、本気の恋教えてやるって言っただろ。もし今承諾してくれないんだったら、浜嶋主任が居るところで約束してくれても良いけど?」

うっ、それだけは絶対避けたい。よりによって嫌な相手に弱みを握られてしまったな。しぶしぶ了解すると、和久田くんは、そこはもうちょっと楽しそうに、と注文を付けてきた。

「それは無理でしょ。脅されてるんだから」

「なんで脅し」

ぼそりと言った言葉にすぐさま反応が返る。しかし、朝っぱらからこんなところでそんな突っ込んだ話をしたくない。結局紗子が口を噤んで、話は終わった。その一連の流れを見ていて詩織が感心する。

「紗子が男に言い寄られてるところを見ることになるとは思わなかった…」

「それ、今に限っては褒めてないから」

「すごいな。松下を落とした最初の男じゃん、俺」

詩織に切り返すと、和久田が気を良くしたようにそう言ってにんまりと笑った。

…気に入らない。してやったりの顔をする和久田くんも気に入らないし、和久田くんの思う通りの態度をとってしまっている自分も気に入らない。

「落ちてないし。もう約束したから良いでしょ。早く席に行ったら」

「それじゃあ定時になったら迎えに来るからな。絶対逃げるなよ」

しっしと紗子が追い払うように手を振ると、和久田は行儀悪くぴっと紗子を指差してから鞄を持ってパーティションを出て行った。全く朝から嫌な出だしになってしまった。紗子は出来るだけこの後の仕事に頭を切り替えた。

< 20 / 48 >

この作品をシェア

pagetop