プラチナー1st-
「わくだくんはあ、ひとが、よすぎるのよ」
目の前で酔っ払った松下がくだを巻いている。こんな姿初めて見るから、面白くて相手をしている。
恋焦がれる浜嶋主任のデートの現場を見てしまった松下は相当ショックだったらしく、路上だと言うのに涙を零した。それだけ強く想っていたのかと驚くとともに、松下の純粋さが涙に現れていると思った和久田は、とことん松下の涙に付き合うことに決めた。
駅裏の居酒屋に松下を連れて入ったのは、店の喧騒をカモフラージュに松下に泣きたいだけ泣かせてやりたかったから。涙は堪えると余計に辛くなる。だから、悲しいと思った時にその気持ちと一緒に涙を流してしまうのが一番なのだ。
「人が良いかな? 俺が?」
問うと、真っ赤になった松下が和久田を指差して、そう! と大声で言った。
「わたしだって、片恋ばっかりだけど、すきなひとと、一緒にいるの、が、楽しかったのよ!」
「それは、俺も同じだけど?」
「わくだくんは、ちがうじゃない!」
「なにが?」
応じると、うーと唸って、松下が続ける。
「わくだくん、はあ、ぜんっぜん、じぶんのこと、思ってない! わたしのこと、ばっかりよ!」
そうでもない。いずれは松下に振り向いてもらいたくてやってることだし、全部未来の自分の為だ。それでも、松下がそう思ってくれているのなら、嬉しい。
「わくだくんはあ! もっと、むくわれても、いい!」
「ふはっ、それなら松下、俺とちゃんと恋愛してよ」
和久田が応じると、とろんと酔っ払った目が瞬きをした。そして。
「んー……」
…考え込むのかと思ったら、机に突っ伏してすうすう寝息を立てている。これは本格的に飲ませすぎたか、と和久田は思った。