プラチナー1st-
今フロアで明かりが点いているのは、紗子の居るデザイン部と、ブロック二つ向こうのマーケティング部だけだった。

しんとしたフロアでカタカタとキーボードを打つ。本当ならこのメールが終わった後に次の仕事のデザイン画も見直したかったが、今日はその時間はなさそうだった。兎に角会議の資料を作り上げてしまわないと。

黙々とパソコンに向き合っていると、パーティションの向こうから声が掛かった。

「あれっ、松下。まだ残ってんの」

声を掛けてきたのは同期の和久田(わくだ)くん。マーケティング部で堅実な仕事をするとして注目されている人物だとは、主任から話を聞いている。

「うん。月曜日の朝の会議に使う資料作ってるの。和久田くんもお疲れさまね。マーケティング部は忙しいもんね」

紗子が応じると、和久田はパーティションの間からデザイン部に入ってきた。

「なに、まだまだかかるのか? なんか手伝えることあったら、手伝おうか?」

和久田の申し出にも苦笑する。まるで詩織と同じことを言う。

「大丈夫。マーケティング部にはこの資料集めてもらったから、此処からは私の仕事よ。気にしないで?」

「そうか?」

和久田も紗子のことを気にした様子だったが、紗子は詩織にしたのと同じように和久田に向かって手を振って見せた。そうすると詩織と同じで和久田それ以上は言えないらしく、じゃあ、気を付けて帰れよ、と言いおいて自席に持ってきた資料を置くと、フロアを出て行った。
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