プラチナー1st-
浜嶋が紗子を連れてきた店は、浜嶋とよく来るイタリアンのお店だった。ビルの一階にある、木の柱に白い壁のお店。使い込まれた同じく木の扉の隣には店の看板が掲げられている。
店の名前は『A-Code(ア・コード)』。店内も落ち着いた木の壁板と白い漆喰風の壁で統一されていて、ところどころに観葉植物が配置されている。客同士が他の客の視線を気にしなくて済むようにだとは、浜嶋の談だ。浜嶋はこの店の店員と知り合いらしく、よく話し掛けているのを紗子は見ていた。
もう既に夜半になっていたので、店内には主にお酒を楽しむ人たちが残っている。浜嶋は何時も紗子を此処に連れて来ては、紗子にオレンジジュースを頼んでくれる。きっとアルコールを飲めない紗子の存在は店に紹介するには恥ずかしいだろうに、浜嶋はそういう素振りを見せずに、紗子を自分の通い慣れた店に連れて来ていた。
…それが、嬉しい。浜嶋主任の、少しは懐に入れてもらっているのかな、と感じるから。
「金曜だって言うのに、大変だったな」
浜嶋が紗子を気遣ってくれる。こういう、部下への細かい気配りが浜嶋の人気の理由の一つだ。自分だけに向かう気遣いだとは思わないが、それでも労ってもらえるのは嬉しい。この時間、少しでも浜嶋の気持ちが紗子に向いていると分かるから。
「いえ。もっと早くにメールが送れてたら、次の案件のデザイン画を見直そうと思ってたので」
「それにしたって、金曜に残ってまでやることじゃないだろう」
浜嶋が微笑(わら)う。でも紗子には、皆が早くに帰るこういう時こそ残業する意味があった。
「そうですね…。すみません、付き合わせてしまって…」
「ああ、俺は気にしてないよ。お前が楽しくないだろうと思っただけだから」
楽しいか楽しくないかと問われたら、今楽しいと思う。二年目に入って仕事もだんだん覚えてきてやれる仕事が増えてきたし、業後にこうやって浜嶋と二人になれるのは紗子の心を躍らせていた。
店の名前は『A-Code(ア・コード)』。店内も落ち着いた木の壁板と白い漆喰風の壁で統一されていて、ところどころに観葉植物が配置されている。客同士が他の客の視線を気にしなくて済むようにだとは、浜嶋の談だ。浜嶋はこの店の店員と知り合いらしく、よく話し掛けているのを紗子は見ていた。
もう既に夜半になっていたので、店内には主にお酒を楽しむ人たちが残っている。浜嶋は何時も紗子を此処に連れて来ては、紗子にオレンジジュースを頼んでくれる。きっとアルコールを飲めない紗子の存在は店に紹介するには恥ずかしいだろうに、浜嶋はそういう素振りを見せずに、紗子を自分の通い慣れた店に連れて来ていた。
…それが、嬉しい。浜嶋主任の、少しは懐に入れてもらっているのかな、と感じるから。
「金曜だって言うのに、大変だったな」
浜嶋が紗子を気遣ってくれる。こういう、部下への細かい気配りが浜嶋の人気の理由の一つだ。自分だけに向かう気遣いだとは思わないが、それでも労ってもらえるのは嬉しい。この時間、少しでも浜嶋の気持ちが紗子に向いていると分かるから。
「いえ。もっと早くにメールが送れてたら、次の案件のデザイン画を見直そうと思ってたので」
「それにしたって、金曜に残ってまでやることじゃないだろう」
浜嶋が微笑(わら)う。でも紗子には、皆が早くに帰るこういう時こそ残業する意味があった。
「そうですね…。すみません、付き合わせてしまって…」
「ああ、俺は気にしてないよ。お前が楽しくないだろうと思っただけだから」
楽しいか楽しくないかと問われたら、今楽しいと思う。二年目に入って仕事もだんだん覚えてきてやれる仕事が増えてきたし、業後にこうやって浜嶋と二人になれるのは紗子の心を躍らせていた。