これは僕と彼女の軌道
 医務室は、学校のより立派な作りで、医療用具の種類も豊富。更には、専属の医者まで居て、まるで総合病院の一角だ。

「はい、じっとしてください」

 その先生に僕は手当てしてもらっている。先輩に殴られた頬と、反対側に地面に抑えられたときにで顳顬の掠り傷。

「手当てが終わったことですし、お嬢さまの部屋に行きましょうか?」

「そ、それはちょっと…」

 ただでさえ、この屋敷の絢爛豪華さや使用人の方々に恐縮しているんだ。女性の部屋に今まで入ったことがないのに、入れるわけない。その上、相手はクラスメイトなら尚更だ。兎に角、早く帰ろう。

「これ以上ご厄介になるわけにはいきませんので、ここらで帰らせてもらいます」

「ご遠慮なさらずに。もし、お嬢様の部屋に入るのが気まずいのであれば、テラスに案内します。お嬢様にも、そちらに来ていただくように手配しますゆえ」

 僕が彼女の部屋に入るのに、気乗りしていないことが見破られている。その上、逃げ道も塞がれた。

「それでは、その、お言葉に甘えて…」

 これはもう、聞き入るの他ない。
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