これは僕と彼女の軌道

晴れる梅雨

 梅雨も終わりに差し掛かってきた。

 最後と言わんばかりにザーザーと降る雨音を傘越しに耳にしながら帰途に着く。

 いつにも増して湿った空気に息が詰まり感覚を覚えた。今思えば、これから直面する無慈悲さの前兆だったのかもしれない。

 部屋の本棚が空になっていた。ここの本棚には医学書が所狭しと詰められていた。残っていたのは学校の教科書やノートくらいだ。

 こんなことする心当たりは1人しかいない。

 階段を駆け下って、母に尋ねる。

 母さんは申し訳なさそうに、「お昼ごろ、お父さんが書類を取りに1度家に帰ってきたの。それで、時間があるからついでに処分するってそのまま…」と語った。

 僕は怒りのあまり、父さんが勤めている病院まで突撃して抗議したい衝動に駆られる。

 だが、それは得策とは言えない。あの人は僕の話を聞こうとしない。

 中学生のときに1度真剣に説得を試みたことがある。だが、僕は発言する暇さえ与えられなかった。父さんは自分の言い分だけ言ってのけて、反論すると引っ叩く。

 今は大人しくするのが賢明だ。わかってはいるが、むしゃくしゃする感情に整理がつかない。

 僕の心は慰めてくれる母さんの声を意識に入れられないほど曇天としていた。
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