これは僕と彼女の軌道
 学校での出来事が脳裏にちらついて勉強に集中できない。

 気分転換にとベランダを出て、空の様子を眺めた。

 夏は夜が来るのが遅い。7時前だが、空のは藍色としており、ゆっくりと黒と化す。

 若干涼しい夜の空気を孕んだ風に当たっていると、スマホが鳴った。

 画面を見ると、そこには今あまり考えたくもない人物の名前が出でいた。着信拒否をするとのべつ幕なしにLINEが届いてくる。

−どうして何にも言わずに帰ったんだよ

−暦ちゃんが心配してたぞ

 不満げな龍也のメッセージに溜息を吐きながら返信する。

−急ぎ用事があったんだよ

−はい、嘘。お前の親友何年やっていると思ってんだ

−どうせ、俺と暦ちゃんが話している姿にやきもきして帰ったんだろ?

 図星で何も返せずにいた。

−てか、暦ちゃんかわいいよな〜

 風無さんを何度も名前呼びするから思わず、『苗字で呼べ』と入力した。送信直前で我に返り、直ぐ様削除した。

 そんな僕を見透かしたように、
−お前もいい加減、名前呼びに変えれば
というLINEが来る。

−呼べるか。バカ

−拗ねてんじゃねーよ。せっかくお前の嫉妬心煽って告白を促してんのに

 薄々感づいていたが、仲良く話していたのも、名前呼びにシフトチェンジしたのも、僕を煽っていたんだな。

−余計なことをするな!

 その一言を最後に画面を閉じ、勉強を再開させた。
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