これは僕と彼女の軌道
 僕らは浜辺で貝殻を探す。

 暦さんは帽子を被っているが、僕は強い日差しに直接当たって辛い。

 だが、まだ目的のものを見つけられていない。探した貝殻は誰も二枚貝だった。

「わぁー。これもステキ」

 でも、新しい貝殻を見つける度に喜悦すら彼女の姿は見てて気持ちが良い。

 足元の砂を掘り返しながら自然な角度で彼女を見つめてあると、トゲトゲした白い巻貝が現れた。ようやく本命が出てきた。

 その貝に手を伸ばすと、暦さんの指先とぶつかった。

「「あ…」」

 かすめた一瞬、お互いの声も重なり気恥ずかしくなる。

 僕が先に手を引っ込めると、暦さんは白い貝殻を拾い上げこちらに差し出した。

「これ探してたんじゃないの?あげる」

 やはり彼女は眼光炯炯だ。僕の目当てがこの貝殻だと見破ってみせた。

 僕は無言で受け取ると、今度はこちらが彼女に差し出す。

「え?」

 疑問符を浮かべる彼女に、「探していたのは、君にあげたかったから」と押し付けた。

 いつもは翻弄されてばかりだから、スマートに渡すことを意識する。

「大事にする!ありがとう!」

 貰った貝殻を抱きこむように大事にする彼女に、胸が熱くなる。ただでさえ、灼熱の太陽に体の表面温度が熱せられているのに、内側からも熱が発生している。このまま熱にうなされて、日射病にかかってしまいそう。

 暦さんは貝殻を太陽にかざし、「まるで骨みたい」と溢した。

「実際に『ホネガイ』って名前。英語だと『ヴィーナスの櫛』って言うみたい」

「へぇー」

 『ヴィーナスの櫛』を持つ彼女の手ごと上から包み、彼女の耳元へ運ぶ。

「こうやって耳に当てると波の音がするよ」

 彼女は僕の言葉に目を閉じ、耳元へ神経を研ぎ澄ませる。

―ザザァー―

「聴こえる。波の音」

 耳元をそよぐ波音に、彼女は安らかな表情を見せる。

「これでいつでも、波の音が聴けるよ」

 この海の波音を覚えていたいと言った彼女。でも、きっと忘れてしまうだろう。せめて何か形に残せたらと思った。

 暦さんはホネガイに耳を済ませたときよりもうっとりとした顔で僕を見つめる。

 さながら本物の『ヴィーナス』のように凄艶だ。

「歩くん。本当にありがとう」

「…」

 述べられた感謝の言葉に目眩がする。これは本当に熱にやられたかもしれない。

 でも、ずっと2人だけの時間を過ごしていたいという感情の方が強い。彼女を時間を僕が独占したい。

 煩悩で埋まった僕の思考は、遠くから聞こえる「高校生くらいの男の子が倒れた!!」という叫び声で断ち切られた。

 何だか嫌な予感がする。

 暦さんを引き連れて、僕は騒ぎの中心へ急いだ。
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