これは僕と彼女の軌道
 十数分後。僕と暦さんには注文していた親子丼が来た。

 そして龍也の目の前には、焼きうどんが運ばれた。

「何で!肉注文したのに!」

「お前の体調を考慮して、焼きうどんに変えといたぞ」

「…トイレのときか!」

 龍也はしばらく考えたあと、僕がトイレにたった瞬間を思い出した。

「ひでーよ。楽しみにしていたのに」

「酷いのはお前の体調だよ。もう少し海で遊びたかったら、せめて食事は我慢しろ」

「だとしても、何でうどんなんだよ。海の家なら、焼きうどんより焼きそばが定番だろ」

 もうやけくそで、どうでもいいようなことにまで文句を言ってくる。

「うどんは比較的に消化がいいから」

「くす…ちくしょう。食ってやるよ」

 龍也がしぶしぶ焼きうどんをすすったが、口に入れた瞬間「うま!」とガツガツ食べ進める。

 相変わらず、現金だな。

「よく噛んで食べなよ」

 龍也に続いて僕も料理に箸を伸ばした。

 親子丼はたまに母さんが作ってくれるが、海の家で食べると何か違うな。

 僕は海辺独特の食べ物のおいしさに舌鼓していると、暦さんは物珍し気に親子丼を見る。

「これが親子丼?」

 やっぱり海の家だけでなく、親子丼も初めてなのかな?

 僕の隣の席にいる龍也が「食べないの?」と訊ねると、ようやく親子丼を口に運んだ。

 暦さんはゆっくり咀嚼すると「お、おいしい」と歓喜する。

 僕はその姿を、不満たらたらだったのに焼きうどんを食べて豹変した龍也と比較した。

 龍也は主張がたった一口でガラリと変わったところがガキっぽくて、おもしろおかしい。

 暦さんはメニュー表をじっくり眺めていたときもそうだったが、初々しく小さい子供のようでかわいい。

 2人とも幼子のような態度をとることに変わりないが、全然違う。龍也も大事な親友で見ていて飽きないが、暦さんは見ていて心が柔らかい気持ちになる。

 食べることを再開させたが、なぜだか親子丼は更においしさが増していた。
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