これは僕と彼女の軌道
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告白するつもりはない

 大川さんから以前のように定期的に屋敷へ来てほしいと言われてから、4日に1度の割合で訪問するようになった。毎日は流石に恥ずかしいし、まだぎこちないが、暦さんと話せることは嬉しい。誘われなければ、休み明けまで会えなかっただろうから。

 だが、今日から夏休み終了まで会うことはできない。なぜなら、夏休み最終日の5日前。そろそろ、あいつが大量のドリルなどを持ってやってくるころだ。

「歩!ヘルプミー!」

 僕の部屋のドアを勢いよく開け放った龍也は、すでに涙目だ。

「やっぱり、今年もか」

「そうなんだよ。夏休み宿題が終わんない…」

 毎年の恒例だ。早くやれと周囲が促してもまったく従わず、大量の宿題を抱え込む。結果、夏休み最終日の数日前に僕のところに駆け込んでくる。

「だから、2週間前に今年はちゃんとやっているかって確認したのに」

「したさ。あの無駄に時間のかかる読書感想文を」

 国語が1番嫌いな龍也にしては珍しいと思い、「ちょっと、見せて」と手を出す。

 渡された読書感想文は漫画だった。

「新学期、先生にしばかれるよ」

「この際、終わればなんでもかまわないよ」

 呆れてものも言えない。

「というわけで歩。宿題を見てください」

「少しは自力でなんとかしようとは思わないの?」

「そんなこと言うなって。逃げようと思えば逃げられたのに家にいたってことは、元から俺のこと手伝ってくれるつもりだったんだろ」

 何度か手伝わされるのが嫌で、図書館に避難した年あった。でも、今年逃げなったのは…

「調子に乗るな。それに薫希さんと同じで、タダで宿題を見てやるつもりもないから」

 タダではないと聞いて青ざめた龍也は、「まさか、お前も俺から金をとるつもりじゃないよな。やめろよ。もう1円だってないんだ」と震え上がる。

「違うよ。現金もらおうなんて、1mmも思ってないから」

「なんだぁ…。驚かすなよ」

 ほっと息をつく龍也だったが、「そのかわり、秋の文化祭で実行委員会をやってもらうからな」と告げると露骨に嫌そうな顔をする。

「不服か?」

「いや、まぁ、小遣いを没収する姉ちゃんよりはましだけど。めんどいなぁ」

 うちの学校の文化祭では、クラス出し物を各クラスの生徒会役員と実行委員が取り仕切ることになっている。実行委員は1学期の始めに既に決まっていたが、僕らのクラスの実行委員は1学期の途中で転校した。そのため、新しく実行委員を決め直すことになった。夏休み直前にクラス全体で話し合ったのだけど、決まらず保留となっている。

「このまま新学期が明けて話し直していたら、無駄な時間を浪費する。担任の先生も、実行委員をやってくれる人に心当たりがあったら僕の独断で決めていいって」

「あのバーコードが」

 うちの担任は薄毛なヘアスタイルで、生徒にバーコードというあだ名を付けられている。名付け親は龍也だ。

「先生を変なあだ名で呼ぶな」

「だって、あのバーコードの所為で実行委員やるはめになったんだもん」

「お前が宿題をやらなかったから、自業自得だ。ていうか、やってくれるのか?」

 少し悩んだ後、龍也は「まあ、宿題のためだし。歩も困っているみたいだし」と引き受けてくれた。

「それじゃあ、早速やるよ。そこ座って」

 部屋の中央のローテーブルで宿題をやろうとするが、「なに言ってんの?やるのは歩の家じゃないよ」と言われた。

「図書館でやるつもりなのか?」

 ここではないと言われ、思いつくのは図書館ぐらいだった。龍也の家は、宿題を溜めていたことが薫奇さんにバレる。だが、本は漫画しか読まない龍也は図書館で勉強するとは思えず、困惑している。

「俺が自分から図書館に行くと思うか?とりあえず、少し待っていよう。もう直ぐ来るはずだから」

 説明が足りない龍也に「来るってなにがだ」といいかけたとき、外から車が止まる音が聞こえた。僅かに聞こえたエンジンに心当たりがあった。

 窓を覗いて見ると、玄関の前に暦さんの家のリムジンが止まっている。

「おっ!ようやくお出ましか。じゃあ、行くぞ。暦ちゃんっちに」

「ちょっと!ちゃんと説明しってば!おい!」

 僕の言葉に耳も貸さず、龍也は僕を引き連れて玄関を出たのだった。
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